秩父夜祭と武甲山の関係
私たちの先祖は、
武甲山へ豊作の祈願と
感謝を行っていた。
想像してみてください。水道も通っていない昔の秩父の人々の暮らしを。生きていくためには水が必要であり、田畑にも水が必要。
生命の源である水源が、神の山である武甲山からの伏流水でした。この豊かな水が豊作に導き、秩父の人たちは生きてゆくことができました。
そして毎年、春には武甲山に豊作を祈り、秋は豊作に対する感謝をあらわすというシンプルな行為がお祭りの元型になっていくのではないでしょうか?
それでは、薗田宮司から、秩父のお祭りについて聞いていきましょう。
夜祭りの本来の目的とは?
夜祭りとは、武甲山の神様の送迎神事
夜祭りの本来の目的とは、秩父盆地全体の聖山である武甲山に鎮まる秩父国魂の「大神」を、春の”御田植祭”にて秩父神社に歓迎し、やがて秩父盆地で農事や養蚕の収穫を終えた晩秋に、”秩父夜祭”でまた武甲山に鎮送するという毎年の送迎神事でした。
武甲山の伏流水が、盆地をうるおす大切な水源。
夜祭りのご神幸行列の先頭を行く大榊に巻きつけられた藁づくりは竜神をあらわしています。この竜神は、毎年、春4月4日に行われる特殊神事「御田植祭」(埼玉県無形民俗文化財)において、市内に鎮座する今宮神社境内の竜神池から迎える水神様のご神体に他なりません。しかも、この竜神池の湧き水は、秩父神社に対面して聳える武甲山の伏流水であり、盆地をうるおす大切な水源なのです。秋の収穫を終えての夜祭の神幸祭には、春先に招迎した武甲山の竜神を初冬に歓送するという太古以来の壮大な風土の神祭りを読み解くことができるのです。
微笑ましい神話も
夜祭りをめぐっては、今でも地元に語り伝えられる微笑ましい神話もあります。それが語るには、神社にまつる妙見菩薩は女神さま、武甲山に棲む神は男神さまで、互いに相思相愛の仲であります。ところが残念なことに、実は武甲山さまの正妻が近くの町内に鎮まるお諏訪さまなので、お二方も毎晩逢瀬を重ねるわけにもゆかず、かろうじて夜祭の晩だけはお諏訪さまの許しを得て、年に一度の逢引きをされるというものです。
たしかに武甲山は、その山麓に対面して鎮座する秩父神社の、いわば神体山に当たります。盆地の南面を遮って一千米ほどそそり立つ山容は、山麓に拡がる秩父市街を見守る巨大な屏風をなすが如くであります。そしてこの夜祭には、市街中央の本社から祭神が武甲山に向けて出立され、この山を正面に望んで「お花畑」という名をもつ高台の「お山」神事によって、神体山に還り鎮まるという古代祭祀の様式が今に潜んでいるのです。